PTP1C(最近SHP-1に統一されたので以下SHP-1)はチロシンホスファターゼの一つで、細胞増殖に関する造血細胞の細胞内シグナル伝達において重要な役割を演じていることが明らかになりつつある。今回、EPO依存性白血病細胞株をモデルにして、SHP-1と血球増殖分化との関係をとくに赤血球造血に焦点をしぼり解析した。 エリスロポエチン(EPO)依存性白血病細胞株UT-7とその亜株でより赤芽球系へ分化したUT-7/EPO、EPO刺激で赤芽球系へ分化するUT-7/GM間における比較から、UT-7/EPOはEPOに対して最も感受性が高く、SHP-1の発現はほとんどなく、EPOレセプター(EPOR)の発現は高いことを見いだした。また、UT-7/GMをEPO存在下で赤芽球系へ分化誘導したところ、週を追うごとに赤芽球分化の指標であるγ-グロビンやEPORの発現量が多くなり、一方、SHP-1の発現量は減少した。これに伴い、EPO感受性も増加した。これらのことから、赤芽球系への分化に伴うEPO感受性の変化はEPORのみならずSHP-1の発現量の変化も深く関与していることが示唆された。 次に赤芽球分化に伴うEPOの感受性の変化がSHP-1の発現量に依存しているか否かを解析した。ヒト正常骨髄細胞から分離した単核球をFACSを用いて、より未分化なCD34(+)glycophorinA(-)群とより赤芽球系へ分化したCD34(-)glycophorinA(+)群とに分け、これら2群におけるSHP-1の発現をFACSを用いて解析した。より未分化なCD34(+)glycophorinA(-)群ではSHP-1の発現が高く、より赤芽球系へ分化したCD34(-)glycophorinA(+)群ではそれに比べてSHP-1の発現が低いことがわかった。すなわち正常骨髄細胞においても未分化な細胞から赤芽球系へと分化するにつれて、SHP-1の発現が低下することが明らかになった。したがって赤芽球分化に伴うEPO感受性の変化にはEPO受容体だけでなくSHP-1の発現量の変化が深く関与していることが示唆された。
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