研究概要 |
我々の過去の研究から、身体的特徴を示さない小児期の脆弱X症候群の診断には遺伝子診断が不可欠であることが判明し、家族性の精神遅滞を有する発達障害児を中心として、リンパ球よりDNAを抽出し、PCR法を用いた脆弱X症候群の遺伝子異常のスクリーニング法を確立し、同患児を検出している。 今回、採血に伴う苦痛の回避、採取の容易性から、新鮮尿検体を用いた、PCR法による脆弱X症候群の遺伝子診断法の確立を検討した。 従来、尿を用いたPCR法は、膀胱癌の早期発見等において行われてはいるが、脆弱X症候群の同定、ならびにスクリーニング法としては用いられておらず、我々が最初の研究になる。 実際に検査に必要な尿量を決定するため、尿中に含まれている細胞数を測定し、成人と小児での尿中細胞数の含量の違いについて検討した。結果として、成人に較べて正常小児での尿中細胞数は極めて少なく、数個/毎視野程度であった。この結果を基に、実際に1回採尿で小児から得られる尿量を考慮し必要尿量を検討した。 尿中細胞からのDNA抽出は、報告されている方法を基に、尿を遠心し、尿中の塩類等を除去するために、沈渣に50℃の生食を加えて溶解後、遠心を2回施行し、沈渣からDNAを抽出した。得られたDNAを使用し,Pfuポリメラーゼを用いたPCRを施行したところ、bandの検出率は70%台と低値であった。検出率が低い原因として、尿の洗浄過程での細胞の喪失、沈渣からのDNA抽出過程での喪失が考えられ、尿沈渣を直接用いたdirect PCRを施行することで、DNA抽出過程での喪失を防ぐこととした。これにより、検出立は90%まで上昇し、最終的に5〜10ccの尿があれば、尿中細胞数が少ない小児でもPCRスクリーニングが可能となった。 今後、さらなる検出率の向上を図るため、尿の処理法やPCR条件に検討を加えるとともに、1st PCR後にnested PCR、またはPCRサザンの併用を検討する。
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