在胎120日(満期145日)の妊娠羊5頭に対して、母胎にマーカインによる硬膜外麻酔、必要に応じてケタラールによる鎮静を施行。開腹して、子宮を露出し切開して胎仔を露出。第2肋間にて側開胸を行い、上行大動脈、主肺動脈、右内頚動脈を十分に剥離し、それぞれに超音波血流計を縫着。更に、右内頚動脈、右内頚静脈にカテーテルを挿入。胎児の右心耳に心房用針電極を縫着。右心房を300/minの頻度でペーシングする事によって、胎児心房粗動モデルとした。内頚静脈からNomega-nitro-L-arginine(NNLA)を注入する前後で血流測定を行った。 今年度の検討では、問題点として、上行大動脈を充分剥離して超音波血流計を縫着する事が難しく、血流の測定は心拍出量の代用として主肺動脈を用い、脳血流には内頚動脈の血流を用いた。更に、胎児が母体内で移動してしまうことからペーシングモードを変化させることが難しく、慢性実験が行えず、体外式ペースメーカーを用いた急性実験にとどまった。 内頚静脈血流(ml/min/kg)ペーシング前53.7±20.9、ペーシング後50.8±18.1、NNLA注入後 41±16.8、主肺動脈血流(ml/min/kg)ペーシング前 181±25.6、ペーシング後 153±15.6、NNLA注入後 148±24.3。 以上から心拍出量は心房粗動の状態では16%低下していたが、脳血流は有意な変化を来さなかった。NNLAを注入してから脳血流は低下したことより、胎児心房粗動において、脳血流の維持に一酸化窒素の血管拡張作用が関与していたことが証明された。 上述した様に、主肺動脈の血流しか測定できなかったので、ペーシング時、NNLA注入時に胎児循環がどのように変化したのか充分に検討できなかった。
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