生体肝移植を受けた胆道閉鎖症の患児に認められた高度線維化(F)部と非線維化 (N)部よりそれぞれ抽出したmRNAを用いてdifferential RT-PCRを行い、これまでにトロンボスポンジン(TSP)、補体4a(C4a)、成長因子受容体結合蛋白の一種と見られる蛋白(Grb-IR-1ike protein)、および鉄調節因子結合蛋白などのmRNAがN部よりF部において有意に高発現していることを確認した。Grb-IR-LPについては、当初サブクローニングした3'-noncoding regionの上流塩基配列を検討したところ、昨年クローニングされたGrb-IRのalternative splice variantの一つであるGrb-IRγであることが確認された。Grb-IRγは正常な肝組織には殆ど発現が認められないが、我々が行ったin situ hybridizationによる検討では、F部の線維化をきたした門脈域の線維芽細胞に強い発現が確認され、この蛋白がチロシンキナーゼ型受容体の細胞内リン酸化部位への結合蛋白として肝の線維化に促進的な役割を担っている可能性が示唆された。またTSPについては、我々は複数例の肝病理組織においてそのmRNAが細胆管周囲の線維芽細胞に発現し、蛋白が線維化部の増生細胆管周囲に分泌されていることを確認したが、近年の知見では、個体発生においてTSPが組織内の潜在型TGF-β1を活性型へと転換させることによって器官形成に関与していることが明らかとなっている。そこで我々は、さらに同様の病理組織におけるTGF.βとその受容体の局在についても検討し、器官形成だけでなく病理学的な線維化局面においてもTSPがTGF-βとの関連において機能している可能性を示した。上記Grb-IRγおよびTSPに関する検討については、それぞれ論文として投稿中である。
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