2種類の病態モデルマウスを用い、皮膚・皮下結合組織の慢性増殖性炎症と、その炎症部位における肥満細胞密度、肥満細胞プロテアーゼであるキマーゼの酵素活性との相関を解析した。1.自然発症強皮症モデル(Tsk)マウスの背部皮膚は皮下組織との可動性が制限され、組織学的に真皮と皮下線維組織層の肥厚がみられた。特に後者は5週齢より対照マウスに比べ、有意な肥厚を示した。また、10週齢以降、真皮ハイドロキシプロリン含有率が有意に増加し、生化学的にもコラーゲン含量の増加が示された。これらの病変部では肥満細胞密度および皮膚キマーゼの酵素活性が対照マウス皮膚に比べ有意に増加していた。2. コラーゲン感作により発症させたコラーゲン関節炎モデルマウスでは抗コラーゲン抗体価が有意に上昇し、12週間の経過観察期間中、足趾の発赤、腫張、変形、硬化、萎縮、骨破壊など急性・亜急性・慢性炎症症状を示した。慢性期のアザン染色組織像では関節周囲の有意なコラーゲン線維増加を特徴とした慢性増殖性炎症像を示した。感作群の足軟部組織では対照群に比べて有意な肥満細胞密度上昇に加え、キマーゼ酵素活性上昇を示した。しかし、非病変部である背部皮膚、肺、小腸ではその活性に対照群と差がなく、キマーゼ増加が炎症部位に特異的であることが証明された。3.酵素組織化学染色では、両病態モデルとも慢性炎症部位に強いキマーゼの水解活性が確認され、肥満細胞の集簇部位とほぼ一致していた。 以上、慢性の皮膚・皮下炎症を呈する2種類の病態モデルにおいて、その病変局所での肥満細胞密度とキマーゼ酵素活性の上昇が証明された。いずれも病理所見と相関しており、皮膚慢性炎症における肥満細胞キマーゼの役割が示唆された。キマーゼの病態生理学的意義をさらに明確にするため、キマーゼ遺伝子発現の動態と病理所見との相関、開発中のキマーゼ阻害薬の治療効果を今後検討していく予定である。
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