マウスケラチノサイト由来細胞株KCMH-1の培養上清中に含まれる因子(MGF)は、線維芽細胞との共生培養系で肥満細胞の増殖を誘導する。これまでにMGFの精製を試みてきたが、未だその因子の単離同定には至っていない。本年度は、肥満細胞一線維芽細胞の共生培養系において、MGFがいかなる細胞内シグナルの活性化を惹起するかを中心に解析を試みた。 肥満細胞一線維芽細胞の共生培養系に部分精製したMGFを添加し、誘導される肥満細胞増殖に対する各種細胞内シグナル伝達阻害物質による影響を調べた。その結果、シクロオキシゲナーゼの阻害物質であるインドメタシン(10μM)の添加により、MGFによる肥満細胞増殖が抑制されることが判明した。さらに、肥満細胞一線維芽細胞の共生培養系にMGFの代わりにプロスタグランディンE2(PGE2、1μM)を添加すると、MGFと同様に肥満細胞増殖が生じた。このことから、MGFは線維芽細胞を刺激することによってシクロオキシゲナーゼを活性化し、プロスタグランディンを産生することによって肥満細胞増殖を惹起している可能性が推察された。しかしMGFの部分精製標品で刺激した線維芽細胞の上清中のPGE2をELISA法で測定すると、無刺激の上清に比較して若干の産生増強がみられるが、肥満細胞増殖を惹起し得るほどの十分な量は検出できなかった。 肥満細胞一線維芽細胞の共生培養系における肥満細胞増殖に、プロスタグランディンが何らかの関与をしていることは考えられるが、MGFによる作用にどれだけ関わっているかは不明である。今後MGFの精製を進めるとともに、その作用機序の解明に向けて研究を進めて行く予定である。
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