研究概要 |
アトピー性皮膚炎に代表される慢性の炎症性疾患では肥満細胞の役割が重要視されている。しかし、この慢性の炎症の病変部局所に集積する肥満細胞が、病態形成にどのような役割をしているかは推測の域を出ていない。本研究ではハプテンの繰り返し塗布により作成したマウス慢性皮膚炎モデルにおける肥満細胞の役割を、肥満細胞欠損マウスを用いて明らかにしたいと考えた。 1. 肥満細胞欠損マウス(W/W^V,Sl/Sl^d)においても、ハプテン塗布を繰り返すことにより、前者においては肥満細胞の集積を認めるようになる。それに応じて即時型の浮腫性反応が出現してくるのに対し、後者では肥満細胞は殆ど認められず、即時型の反応も出現しなかった。これらのマウスにハプテン塗布を繰り返し、経時的な耳翼の厚さを測定したところ、後者におていはcontrolと比べ慢性期に有意の増加を認めた。それに対応するように組織所見において、後者では前者と比べ著明な組織の破壊が認められた。 2. controlマウスの骨髄細胞をIL-3とともに培養することにより肥満細胞を得たのち、これをSl/Sl^dマウスの耳翼に局所移入し、#1と同様の検討を行った。肥満細胞を再構築したSl/Sl^dマウスでは、ハプテンの繰り返し塗布により浮腫性の即時型反応が認められるようになるとともに、耳翼の厚さもcontrolとの差がなくなり、著明な変形も認めなくなった。 3. ハプテンの繰り返し塗布によるサイトカインの産生パターンの経時的変化をcontrol、W/W^V,Sl/Sl^d、肥満細胞再構築Sl/Sl^dマウスで比較したところ、著明な差は見出し得なかった。 4. controlマウスにハプテン繰り返し塗布を行い、慢性炎症に対する抗アレルギー剤の効果を検討したところ、有効性は見い出せず、むしろ増悪する場合も認められた。 5. 以上の結果は慢性炎症において肥満細胞がむしろ組織構築の保護に作用している可能性を示すものと言える。
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