細胞膜は、種々の蛋白質から成る膜骨格によって細胞内側から裏打ちされている。この膜骨格の構造と機能については、これまで主にヒト赤血球で解析されてきたが、ヒト表皮角化細胞においても数種類のヒト赤血球膜骨格に類似した蛋白質の存在が免疫化学的に確認されている。 ヒト表皮角化細胞の主要な裏打ち蛋白質であるスペクトリン様蛋白質(フォドリン)はCa^<2+>スイッチによって細胞質から細胞膜に移動する。同様にアクチン(細胞骨格)、ビンキュリン(裏打ち蛋白質)でも膜への移動が見られる。我々は培養ヒト表皮角化細胞にelectroporation法(電気穿孔法)を用いて抗ヒト赤血球スペクトリン抗体を導入し、細胞接着の様子を共焦点レーザー顕微鏡を用いて観察した。この結果、細胞内で抗スペクトリン抗体とフォドリンの免疫複合体が形成され、アクチン、ビンキュリンとも細胞質から膜への移動が認められず、細胞接着が阻害された。このことからフォドリンが細胞接着に重要な役割を果たしていることが示唆された。 また、フォドリンの生体内における細胞接着への関与を調べるため、ケラトアカントーマ・基底細胞癌の摘出標本を迅速凍結後、抗β-フォドリン抗体を用いて蛍光染色した。良性腫瘍であるケラトアカントーマでは、表皮角化細胞間が明瞭に染色されたが、基底細胞癌では細胞間に微弱な染色が認められる程度であった。今後低分化型の有棘細胞癌や悪性黒色腫などの悪性腫瘍、水庖症、角化異常症などにおけるフォドリンの役割についても検討する予定である. ヒト表皮角化細胞には、このほかにアンキリン、バンド4.1蛋白質などの裏打ち蛋白に類似した蛋白質が存在する。Ca^<2+>スイッチ前後でバンド4.1蛋白質はフォドリンと同様に細胞質から膜付近に移動した。このことからバンド4.1蛋白質もヒト表皮角化細胞の細胞接着に重要な役割を演じていることが示唆された。今後バンド4.1蛋白質やアンキリンに関しても electroportion法による抗体導入を行い、さらに上述の皮膚疾患について免疫学的に検討する予定である。
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