骨髄が広範に照射されるような放射線療法や、強力な化学療法によって生じる遺伝子障害は、将来二次発癌を始め様々な合併症を併発する可能性がある。本研究では、癌治療後に生じる遺伝子突然変異を評価する指標として、比較的検出が簡単であるhprt locusの変異を検出することにより、遺伝子障害に起因する合併症を予測する方法を開発することを目的とした。本年度は昨年度に引き続き、マウスに0.5-2.5Gyの重粒子線の全身照射、および2-6GyのX線照射を行い、照射後1週後に脾臓を摘出し、脾臓リンパ球における遺伝子変異を検討した。リンパ球遺伝子変異の発生率を比較すると、X線と同等な炭素量視線の線量は、約1/10程度となり、重粒子線では遺伝子変異の発生が大きいことが示唆された。上皮性培養細胞を用いた場合は、細胞の放射線感受性と変異発生の関係を明確に出来た。すなわち、X線に比べて、重粒子線は殺細胞効果は大きいが、遺伝子変異の発生頻度の著しく高いことが示された。しかし、本検討では照射後1週間を経過したマウスを用いたため、生存率と変異発生の関係を明確に出来なかった。今後、照射直後のマウスから脾臓を摘出し、細胞生存率と変異の発生を、リンパ球についても検討する必要があった。また、化学療法や放射線療法を行った患箸から、リンパ球を採取し、変異の発生頻度を検討した。しかし、多くの場合、培養中に真菌の感染が発生し、目的を達成できなかった。今後、細菌感染に対する対策を強化し、正常組織障害とリンパ球遺伝子変異発生の関係をさらに検討する予定である。
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