proton MR spectroscopyを用いて各種脳内代謝物濃度を定量化し、年令における正常範囲を決定し、病的変化の程度とパターンについて検討することを主目的とする。特に本年は正常者の脳内代謝物濃度の分布と年令変化について検討した。統計的処理として、多変量解析の手法も応用して、多因子間での相関についても検討した。 代謝物濃度の定量方法としては、脳内の水信号を内部標準として使用し、組織の水濃度をwater bagとともに測定したプロトン密度強調画像から算出した。緩和時間の影響を最小にするためにTR=5000ms以上、TE=18ms以下に設定した。ボクセルの大きさは概ね6ml以下としたが、測定によっては表面コイルを使用して0.6ml程度での測定も行った。 正常者での代謝物濃度は、場所による変化がみられるが、特にCreatine(Cr)とCholine(Cho)では、違いが大きいが、NAAでの差異は小さかった。表面コイルを用いた小ボクセルでの測定により白質と灰白質を区別して測定すると、NAAの濃度差が小さいのにたいし、CrとChoの差が大きく、白質ではChoが多く、灰白質ではCrが多く有意差が認められた。年令による変化でも、レンズ核部でのNAA低下が高齢者で有意であり、前頭葉では差が見られなかった。この結果は部位によりNAA濃度の年令変化に差があることを示唆し、正常老化と痴呆との鑑別に有用かもしれない。 自閉症患児では、小脳と扁桃核でNAAの低下に相関がみられ、病態を反映する所見と考えられた。自閉症は画像ではほとんど異常が検出できない疾患であり、非侵襲的に異常を検出しうる方法として、臨床的にも非常に有用でないかと期待された。 本年は2年計画の1年目であり、来年はさらに症例をふやし、有用性と限界について検討を行う予定である。
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