研究概要 |
Thallium-201という代表的な心臓、腫瘍核医学製剤の細胞内での分布や挙動につき検討を加えてきた。本研究は2つの項目を含んでいる。 まず第一に心臓の心筋細胞内分布の形態学的、機能的検討で、分布早期には細胞内に広く分布するが、後期になるとミトコンドリアとsarcoplasmic reticulumへのretentionがめだち、myofibril,nucleiには残存しない傾向にあった。細胞質液への分布は無視できないが、従来には細胞内小器官への取り込みが形態学的に証明されておらず、本研究で初めて明らかな形態学的証明(電子顕微鏡的)がなされた。これにより心筋のTl-201取り込みが単に血流の多寡だけでなく、細胞内のミトコンドリアに相関する可能性を提示できたと評価できる。本研究のこの部分は既に論文として出版された。論文の中で、Tlイオンの分布が組織化学的方法で十分なfixationが確保されたかを保証するためにTl-201を用いたtracer実験から細胞内分布の形態学的数値データと実際のtracer分布データの良い相関を証明してある。 次に、腫瘍細胞の種類ごとのTl-201取り込みの差は細胞表面のNa-K ATPaseのactivityの差とされてきたが、より科学的な説明は為されていなかった。しかし我々は能動輸送ポンプを駆動する細胞内エネルギー生産量の差が、細胞ごとのTl-201の取り込みの差に直接的に関連していることを提唱し、実験的に検証した。その結果、少なくとも悪性腫瘍細胞と正常細胞の間にはATP生産に明らかな差を認め、その差はTl-201の集積に直接的に反映される。加えてATP生産を実験的に阻害するとTl-201の取り込み抑制が観察された。Tl-201取り込みに関する曖昧な議論に一石を投じるデータを得た。現在この所見については論文投稿中である。
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