研究概要 |
一連の検討結果より、脳内神経伝達物質の生合成前駆体であるチロシン、ドーパの誘導体I-AMT、I-DOPAが、脳のアミノ酸膜輸送機能を選択的に測定し得る放射性診断薬として有用であることを明らかにするとともに、DOPAの部位選択的ハロゲン標識に関しては、固相化標識法を確立した(06770731,07770764)。また、脳内神経終末に取り込まれたアミノ酸を神経伝達物質に変換する芳香族アミノ酸脱炭酸酵素(AADC)活性測定を目的として、AADCの阻害剤であるDFMTを標識原料として合成し、そのヨウ素標識体の評価を行った。I-DFMTの代謝安定性は高く、その脳集積はAADC活性に依存していたが、アミノ酸輸送系への親和性を有しておらず、脳への集積量は低かった(08770750)。昨年までの検討より、I-DFMTは生理的pHではアミノ基が十分に解離しておらず、カルボキシル基の荷電により膜輸送機構に対する親和性を失ったと考えられた。そこで、脂溶性による脳移行性の向上と脳内での酵素的解裂によりI-DFMT生成が期待されるメチルエステル体(I-FTM)をプロドラッグとして応用することを計画した。さらに、メチルエステル体のプロドラッグとしての利用の妥当性を確認する目的で、FTM、DFMTのα-炭素上の官能基を水素に置換したモデル化合物を合成し、脳移行性と酵素的変換に関して比較検討した。 I-FTMは予想通り高い脂溶性を示し、脳への移行性は顕著に改善した。I-FTMは脳内で速やかに脱メチル化され、I-DFMTに変換されることが確認された。I-FTMの脳スライスへの集積は、I-DFMTと同様にAADC阻害剤の前処理により有意に低下し、I-FTMの脳への集積がAADC活性の指標になると考えられた。これらの研究成果により、第36回日本核医学会賞を受賞した。同様の結果がモデル化合物においても確認され、カルボキシル基を有する脳機能診断薬開発におけるエステル化の有用性が示された。
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