ATP及びアデノシンは中枢神経系内で神経伝達物質遊離に作用する神経修飾物質であり、臨床的に痙攣性障害、感情障害、不安障害、錐体外路症状などの病態に関与すると考えられている。本研究期間において、抗てんかん作用、情動安定化作用を有するカルバマゼピンが、アデノシンA1受容体阻害効果、アデノシンA2受容体作動性効果を示す実験事実を報告した。一方、新たなアデノシン受容体であるアデノシンA3受容体は、感情障害に関与すると考えられているセロトニンの再取り込みを亢進する実験結果も報告し、アデノシンA3受容体機能阻害が新たなうつ病治療法となる可能性を示唆した。 また、パーキンソン症候群の治療法として、神経伝達物質ドーパミン前駆物質L-DOPA投与の有効性は広く認められているが、近年、L-DOPA自体が薬理活性を有する可能性が示唆され始めており、副作用発現に関与する可能性も散見されるが、このL-DOPAが線条体において神経伝達物質様遊離形式を示す実験事実を報告した。一方、アデノシンA2A受容体機能抑制が新たなパーキンソン症候群の治療法として注目されているが、アデノシン2A受容体機能抑制は線条体ドーパミン遊離に影響せずに、L-DOPA遊離を抑制した。L-DOPA自体の機能過剰亢進がパーキンソン症候群の病態に関与する可能性を報告予定である。最後に、ATP受容体であるP2purinoceptorは1997年に、従来の古典的薬理学的分類から、分子生物学的分類に変更された。しかし現在、この分類の変更に伴い研究者間で生理的機能の解釈が混乱している。分子生物学的実験から得られたP2purinoceptorの分布と、古典的薬理学的P2purinoceptorに対する選択的作動薬、阻害薬と考えられてきた薬剤の特性を再検討し、古典的薬理学的分類が必ずしも妥当な分類法ではなかったことを明らかにしこれも報告予定である。
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