精神分裂病(分裂病)に特異的な自覚的症状を明確にするため、Bonn大学基底症状評価尺度(BSABS)と従来の操作的な精神症状評価尺度Brief Psychiatric Rating Scale (BPRS)を用いて分裂病50例、躁うつ病25例、神経症25例、健常対照群25例における比較検討を行った。その結果、分裂病に特異的な症状は、思考領域における思考干渉、思考促迫、思路の途絶、言語の受容と表現の障害、超短期ならびに短期記憶の障害、表象・知覚・空想・追想の識別障害、象徴理解の障害、自己関係付け傾向などの項目であり、知覚領域においては感覚性の過覚醒、知覚の細部による制縛、自己行動の知覚の連続性障害であることが判った。これらの質問項目を分析するとこにより、分裂病性障害は要素心理学的に「思考」「言語」「記憶」「注意」の4つの障害に起因することが新たに判明した。こうした分裂病性の自覚的障害体験が従来までの神経化学、認知心理学、精神生理学研究によってこれまで蓄積されてきた膨大な客観的所見と合致したのは非常に興味深い結果である。本研究の結果はこれまで困難とされてきた分裂病の精神病理学と生物学的精神医学を架橋する成果として重要な意義を持つものと考えられる。その結果、分裂病研究の神経心理学ならびに神経生理学的な研究の新たな展開が可能となった。 また現在MRI画像による脳構造の解析と体積測定のデータ集積も順調に進行中であり、進行心理および精神生理学的な脳機能の評価と精神症状評価との関連をまとめて報告する予定である。
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