中枢神経ドーパミンニューロンには単発と群発の2種類の発火パターンがあることが知られている。単発に比べ群発の発火でより強力なドーパミンの放出が生じると考えられており、実際、電気刺激や薬物による群発発火増加によって放出が著しく促進されることが証明されている。精神分裂病と強い関わりがあると考えられている中脳腹側被蓋のドーパミン起始細胞の発火パターンを指標にして向精神薬のドーパミン放出に対する作用がこれらの投射部位の違う細胞によって異なるのかどうか、また、近年、提唱されている精神分裂病のグルタミン酸低活動仮説との関連を検討するすることを目的とした。 今年度は、基礎実験としてグルタミン酸の作用点であるNMDA受容体を分子生物学的手法を用いて選択的に減少させ、ドーパミン系機能への影響を検討した。NMDA受容体チャンネルのサブユニットであるNMDAR1のmRNAの発現やレセプター蛋白への翻訳を抑制する短鎖のDNA(アンチセンス・オリゴヌクレオチド)を合成し、ラット脳室内へ浸透圧ポンプを用い1週間微量持続注入した(ノックダウン)。その後、脳定位的に麻酔下in vivo細胞外シングルユニット記録法を用いて、中脳の発火ドパミン細胞の数の変化、発火頻度の変化、ドパミン放出を反映するバースト発火の割合や性質の変化などをコンピュータで解析した。溶媒投与群との比較においてアンチセンス投与群に有意なバースト発火率の低下を認めた。一方、発火頻度に有意な変化は認められなった。これらの所見は、グルタミン酸系ニューロンの低活動がドーパミン系ニューロンの基礎活動に変化を与えず、選択的にドーパミン放出を減少させる可能性を示唆するものかもしれない。ただし、今後、センス(アンチセンスに相補的なオリゴヌクレオチド)やランダム(アンチセンスと同じ塩基をランダムに配列してゲノムに相同性がないもの)などのコントロール投与群との比較が必要である。なお、この研究内容は第20回生物学的精神医学会にて発表予定である。
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