本研究は、ポジトロン標識化合物と生きた脳スライスを用いて、ムスカリン性アセチルコリンレセプター(mAChR)に対するベンゾジアゼピン(BZ)系薬剤を介したGABA系の抑制性調節が存在するかどうかを明らかにし、ベンゾジアゼピン系薬剤健忘の作用機構を解明することを目的とした。ラットより迅速に脳を摘出し、厚さ200μmの悩スライスを作成した。酸素ガスを供給した生理的溶液の中で、同スライスを、mAChRアンタゴニストである[^<11>C]N-methyl-4-piperidylbenzilate([^<11>C]NMPB)を用いて、インキュベーションした。イメージングプレートを用いて、スライス内の特異的結合を、溶液中に浸したままで2次元画像情報として描出し、得られた画像に関心領域を設定して定量解析を行った。トリアゾラム単独では、[^<11>C]NMPB結合に変化はみられなかったが、GABAアゴニストのムシモールと併用した場合に、[^<11>C]NMPBの特異的結合を低下させた。スキャッチャード解析では、mAChRに対するこれらGABA系の抑制性調節が、解離定数(Kd)の増加によるもので、最大結合量(Bmax)の変化によるものでないことが示され、BZアンタゴニストであるRo15-1788によって、これらの効果が打ち消されたことで、BZ/GABAレセプター複合体を介した調節であることが裏づけられた。 ラット脳を用いたホモジネートでも同様の結合実験を行い、スライス実験系の結果と比較検討した。生きている脳スライスにおける[^<11>C]NMPBのmAChRに対する親和性は、ホモジネートに比べて20-50倍以上低く、Kd値の部位差も、生きている脳スライスに特有な所見であることが示された。第2年度は、これら初年度の研究結果を統合し、トリアゾラム以外の他のBZアゴニストの作用、および脳の局在性についてさらに掘り下げた検討を行う。
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