研究概要 |
情動(うつ病)及び記憶障害(アルツハイマー病)における共通の分子生化学的基盤としてのcAMP生成変化の意義を解明するためヒト死後脳を用いてcAMPの産生酵素であるアデニル酸シクラーゼ(AC)の機能と量を検索した。さらにcAMPを調節しうる細胞内情報伝達系に直接作用する薬剤(フォルスコリン誘導体)から新しい抗うつ薬並びに抗痴呆薬の探索を行った。 代表的情動障害であるうつ病の死後脳前頭葉において(1)Ca^<2+>/CaM非感受性アデニル酸シクラーゼ(AC)によるcAMP産生系の低下,(2)5-HT応答性ホスホリパーゼC系の亢進及び(3)Ca^<2+>/CaM感受性ACによるcAMP産生系の亢進という複数のセカンドメッセンジャー系の不均衡が関与していることが推察された.また記憶障害疾患であるアルツハイマー病脳においてはCa^<2+>/CaM感受性ACによるcAMP産生系の低下,とくにACの1型の量的低下していることを明らかにした。 さらにACを直接活性化するフォルスコリンが強制水泳実験により抗うつ効果,低酸素(CO)負荷による痴呆動物モデルにおいて抗痴呆効果,さらに神経培養細胞においてアミロイドの神経変性に対する拮抗作用を有していることを示した。 以上より情動及び記憶などヒト脳高次機能においてcAMPシグナルカスケードが重要な役割をもっていること,また行動薬理学的検討からcAMP量を増強する薬剤に新たな抗うつ薬・抗痴呆薬として可能性が考えられた。
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