研究概要 |
近年、神経性過食症患者は急激に増加しているが、その病因は不明で治療法は未だ確立されていない。そこで過食の脳内機序を明らかにするために、我々はラットに1日2時間の時間制限給餌を1週間繰り返した後の反跳性過食状態(rebound hyperphagia)のストレスによる増強を過食の症状モデルのひとつとして検討を重ねてきた。今回、ラットをrebound hyperphagia時に小さなケージに入れるストレスを加えるとそのrebound hyperphagiaはさらに増強することを確認し、この条件下で自由摂餌開始前のラットにhaloperidol,diazepam,imipramineを腹腔内単回投与し、摂餌行動の変化と前頭葉や線条体のドパミン代謝の変化をmicrodialysis法で測定した。その結果、このrebound hyperphagiaの増強に前頭葉と線条体のDA代謝が関与していること、haloperidolとdiazepamは異なる作用機序でこのrebound hyperphagiaの増強を抑制する可能性が示唆された。Imipramineの急性投与は摂餌行動に影響を及ぼさなかった。今回の結果からは、過食衝動が強い症例や長期に過食の継続している症例などに短期的にHPを投与して摂食面での体性行動を抑制したり、社会的ストレスから解放し、過食に至るのを防ぐために短期的にDZPを投与するなど、症例に応じた薬物投与も可能と考えられた。ただ、我々は過食症の治療が薬物療法のみで可能とは考えておらず、正しい病気の認知と正しい食生活の再獲得が優先されるべきであり、治療の補助的位置づけとしての薬物利用の可能性を今回の結果は示唆していると考えている。
|