研究概要 |
現在使用されているMood stabilizerとして代表的な薬物は、リチウムとカルバマゼピンであるが、その共通する機構は未だに不明である。そこで申請者はMood stabilizerのプロテインキナーゼC(PKC)を中心とす共通する機構を解明し躁うつ病の病因を探求する事を目的とした。ラットにカルバマゼピンを腹腔内投与後、断頭し大脳皮質のみを摘出し、細胞質成分、可溶化膜成分、非可溶化膜成分に分離し、各成分をDEAEクロマトグラフィーを施行した。ラット大脳皮質の細胞質成分、膜成分においてα,β,γ,ε,δ-PKCの分布は、カルバマゼピン長期投与後変化は認められなかった。非可溶化膜成分をアクチン抗体を用い免疫沈降後、さらにε-PKC抗体を用いイムノブロットを施行し、アクチンに結合していたε-PKCを測定した。1週後は対照と比較して変化を認めなかったが、2週後は対照の約2倍に増加し、3,4,5週後は約3倍に増加していた。さらに非可溶化膜成分を、Phosphoserine抗体を用い免疫沈降し、さらにGAP-43抗体でイムノブロットを施行し、内在的にリン酸化されていたGAP-43を測定した。結果は、対照と比較してカルバマゼピン投与1週後では変化が認められなかったが、2,3週後は約2倍増加し、4,5週後は2.7倍増加していた。 Prekerisはε-PKCが非可溶化膜成分のアクチン繊維と結合し持続的に活性をもつ形に変化するという仮説を提唱した。今回申請者はカルバマゼピンをラットに長期投与後、非可溶化膜成分のアクチンと結合しているε-PKCが増加し、さらに非可溶化膜成分でGAP-43の内在的リン酸化が増加していたことを証明した。GAP-43はプレシナプスに存在し神経細胞の可塑性に関与し、さらに神経伝達物質の放出を調節する重要な蛋白質である。従って、カルバマゼピン投与後の神経伝達物質に対する作用はプロテインキナーゼCのGAP-43のリン酸化で説明が可能である。カルバマゼピンもリチウムと同様に膜成分でε-PKCが増加し、それに伴いGAP-43の内在的リン酸化が増加した。これらの共通する作用機序がMood Stabilizerとして重要であると考えられる。
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