現在使用されている気分安定薬として代表的な薬物は、リチウムとカルバマゼピンであるが、その共通する機構は未だに不明である。そこで申請者は気分安定薬の共通する機構を解明し躁うつ病の病因を探求する事を目的とした. カルシニューリンは神経系に多量に存在し、カルシウム、カルモジュリンにより活性化されるホスファターゼである。カルバマゼピン投与後のカルシニューリンのイムノプロットの結果は、3週後では細胞質成分で、対照と比較して180%、膜成分では150%まで増加した。しかし、4週後以降は現象傾向を示し、5週後では対照の50%に減少した。 GAP-43はPKCよりリン酸化され、カルシニューリンにより脱リン酸化される蛋白質である.次に、免疫沈降法を用い[_32P]ATPでリン酸化されたGAP-43を測定した.このGAP-43のリン酸化の変化はカルシニューリンの蛋白量の変化とほぼ平行した.従って、この結果は、カルバマゼピン投与後2から4週後の間は、カルシニューリンが増加し、GAP-43の脱リン酸化が引き起こされ、in vitroでの[_32P]ATPの取り込みが増加したと考えた.しかし、5週後はカルシニューリンがdown regulationしたため、GAP-43の脱リン酸化が減少し、そのため逆にリン酸化が亢進し、in vitroでの[_32P]ATPの取り込みが減少していたと考えた. リチウム長期投与は、持続的活性を持ったアクチン結合型ε-PKCが増加し、それに伴いGAP-43の内在的リン酸化が増加した。しかしカルバマゼピン長期投与後は、アクチン結合型ε-PKCは変化せず、カルシニューリンが減少したため、GAP-43の脱リン酸化が抑制され、相対的にGAP-43のリン酸化が亢進すると考えた.GAP-43はリン酸化されると神経伝達物質を分泌させる作用がGispenらによって報告されている. 従って、現在まで幾つかの報告がある、リチウムとカルバマゼピン長期投与後のプレシナプスでの神経伝達物質の分泌が亢進する作用は、GAP-43のリン酸化で説明が可能である.カルバマゼピンとリチウムに共通に認められた、GAP-43の内在的リン酸化増加が気分安定薬の作用機序として重要であると考えた.
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