内因性精神病の病因に遺伝要因が関与していることは、臨床遺伝学的研究から明らかにされている。しかし精神分裂症、感情障害のいずれにおいてもその遺伝様式は明らかではなく、また分子遺伝学的手法を用いた連鎖、相関研究も行われているが、いまだ一致した結論に至っていない。その一因として遺伝的異種性の存在が考えられる。そこで今回我々は、満田らをはじめとする臨床遺伝学的な研究から、遺伝的背景が異なるとされている非定型精神病を対象として、抗精神病薬の薬理学的特徴として注目されているドーパミンD2受容体(DRD2)、セロトニン2A受容体(HTR2A)に注目し、非定型精神病とそれぞれの受容体遺伝子との相関研究を行った。 DRD2遺伝子は有波やの報告したSer/Cys変異とTaq1多型を、HTR2A遺伝子はT102C・RFLPを用いて非定型精神病と正常対照群との間の相関を検討した。しかしながらいずれにおいても有意な遺伝相関は認められなかった。すなわちDRD2、HTR2A遺伝子が非定型精神病の発症に直接関与している可能性は低いと考えられた。しかし非定型精神病の症例数が少なく、さらに症例を集積する必要がある。またDRD2、HTR2A遺伝子の他の多型部位についても調査しなければならない。さらに非定型精神病においても下位分類が想定されており、下位分類についても相関を検討する必要があると考えられる。 近年諸外国でも精神疾患に対する分子遺伝学的研究が精力的に進められているが、常に遺伝的異種性や症例の選択基準が問題とされている。今回我々が対象とした非定型精神病は臨床遺伝学的な研究から遺伝的に比較的均一な疾患とされている。今後、分子遺伝学的研究を進める際には、臨床的、遺伝学的にできうるかぎり均一な疾患群を対象とする必要があると考えられる。
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