逆耐性(行動感作)の形成は一定の発達段階以降に認められる。そこで、生後8日齢および50日齢のウイスター系雄性ラットにMAPを4.8mg/kg、またコントロールとしてsalineを皮下投与し、1時間後に断頭、大脳新皮質からtotal RNAを調製した。RNA arbitrarily primed PCR(RAP-PCR)によって作製したRNAフィンガープリント上で50日齢においてのみMAPによる発現増強が認められるバンドをクローニングし、塩基配列を決定した。定量的条件下でのRT-PCRにおいて発達段階特異的にMAP投与1時間後での発現増強が確認された3つはいずれもこれまでに遺伝子としての報告がない新規の配列であり、これらをmrt(Methamphetamine Responsive Transcript)1、2および3とした。mrt1および3について、生後8、15、23、50日齢の各ラットの大脳新皮質でのMAP投与1時間後の発現を定量解析した結果、いずれの場合もMAPによる発現増強は生後23日と50日においてのみ認められた。mrt1は生後3週以降に発達に伴ってMAPによる発現誘導が強くなる傾向が認められたのに対して、mrt3の場合は行動感作形成が始まる生後3週直後の発現誘導が最も強かった。mrt2については相対的な発現量の変化を生後8、50日齢において解析したところ、8日齢ではコントロールでの発現量が微量でMAP投与による誘導も認められないのに対して、50日齢ではMAP投与後1時間で顕著な発現増強が確認された。ノーザンプロットにおいて2本のバンドとして確認されたmrt1の完全長に相当するcDNAをクローニングして塩基配列を決定し、splicing acceptor siteの選択によって生じる2種の遺伝子産物をMrt1aおよびMrt1bとした。両者はC末端にのみ違いが認められた。これらの新規遺伝子群は行動感作形成の開始時期である生後3週目以降においてのみMAP投与後の発現増強が認められ、行動感作形成に至る一連のカスケードに関与している可能性が示唆された。
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