本研究の主要三項目は、(I)ミトコンドリア遺伝子異常症(3243変異)の病態解析、(II)ミトコンドリア遺伝子変異の発生・修復機構、(III)ミトコンドリア遺伝子変異の治療法開発、である。昨年度は(I)を中心に検討を行ったが、今年度は主に、(II)、(III)について検討した。核DNA変異の修復機構については現在知見が集積しつつあるが、ミトコンドリアDNA変異の修復機構については殆ど知られていない。そこで核DNA変異の修復機構に倣い、(1)3243変異を有するMELAS、(2)3243変異を有する糖尿病、(3)3243変異を持たない糖尿病、(4)健常者、より得たそれぞれの白血球において、mtDNAにおける8-オキソグアニン量、8-オキソ-dGTPase、8-オキソグアニンDNAグリコシラーゼ並びにhMTHlの発現を検討した。その結果、(1)〜(3)の3群と(4)の間には有意の差を認めたが、(1)〜(3)の3群間では有意差を認めなかった。従って、mtDNA変異の程度とDNA修復機構との間に大きな差は見られず、疾患としての表現型にDNA修復機構の違いが関与している証拠は見出せなかった。つぎに、疾患治療の可能性として現在上梓されているCoQ_<10>を常用量使用し、治療前後でインスリン分泌の変化、インスリン抵抗性の変化を検討した。治療前後でインスリン分泌ならびに抵抗性に関して、明らかに変化は見られなかった。しかし、運動後血中乳酸、ピルビン酸の上昇はCoQ_<10>により改善が見られた。しばしばミトコンドリア遺伝子異常症における運動の是非が論議されるが、CoQ_<10>により少なくとも通常の運動療法は施行可能と考えられる。今回、CoQ_<10>の常用量を用いたが、既報では常用量のほぼ10倍量を使用し多くの有効例を得ており、当疾患におけるCoQ_<10>の保険適応も含め今後早急に検討すべきと考えられた。
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