高血糖状態では細胞内に取り込まれた過剰なブドウ糖がヘキソサミン経路によりグルコサミンに代謝され、グルコサミンがインスリン抵抗性を惹起する中心的な役割を担う。そこで、糖尿病状態が動脈硬化の進展に及ぼす細胞レベルでの検討として、培養血管平滑筋細胞(A10)でのPDGF刺激による細胞増殖作用をBromodeoxyuridine(BrdU)の取り込みにより測定した結果、グルコサミン培養下では高血糖培養下に比し高度に細胞増殖を促進し、グルコサミンがインスリン抵抗性の発現に加え、糖尿病による動脈硬化促進に重要な役割を担うことを明らかにした。その分子機構として、PDGF受容体以後のシグナル伝達において、Shcのチロシンリン酸化とShcのGrb2への結合に異常が生じている結果を得た。チアゾリジン誘導体がインスリン抵抗性を改善するのに加え、本研究によりトログリタゾンがグルコサミンにより惹起される、Shcを介したシグナル伝達異常と細胞増殖の亢進を改善することを明らかにした。その機序として血管平滑筋細胞では核内受容体PPARγの発現量は僅かであり、PPARγ結合活性の異なったチアゾリジン誘導体でも同様の効果を示したことから、チアゾリジン誘導体の動脈硬化抑制作用発現にはインスリン抵抗性の改善とは異なり、PPARγを介さずに作用すると考えられる新知見を得た。さらに、NIDDM患者でのShc遺伝子異常の有無に関する検討として、Shc遺伝子異常がNIDDMの発症と病態に関与する可能性を調べるため、NIDDM患者から得られたgenomic DNAのshc遺伝子をSSCPにより解析した結果、大血管合併症が高度に進行したNIDDM群でpolymorphysmsを認めるという興味深い結果を得たため、その遺伝子異常をシークエンシングにて確認中である。
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