先天性ヨード濃縮障害は乳児期にヨード摂取が少ないと重篤な甲状腺機能低下症(クレチン症)を呈する。本年度は、近親婚の両親を持つ先天性ヨード濃縮障害がヨード輸送蛋白(NIS)の異常により発症することを明らかにした。 まず、ヒト正常甲状腺のmRNAより逆転写でcDNAを合成したのち、報告されていたラットNIScDNA配列を元にプライマーを作成し、PCR法とRACE法を用いて行い、ヒト NIScDNAの単離をした。これは、同じ頃米国のグルーブにより明らかにされたヒトNIScDNA配列と一部が異なっており、スプライシングが異なって生じたものと考えられた。 症例の切除された甲状腺組織から抽出したRNAを抽出、逆転写でcDNAを合成したのち、ヒトNIScDNA配列よりプライマーを作成し、NIScDNAの蛋白コード領域を全長にわたりPCRにより増幅し、直接塩基配列を決定した。その結果、一塩基置換のみを認め、膜貫通領域のThrがProに変異した(T354P変異)。この領域のゲノムDNAの構造を明らかにして家族解析を行うと、症例ではT354P変異がホモに認められたのに対し、健康な両親と同胞ではヘテロで劣性遺伝形式を示した。T354P変異によるNISの機能をみるために、ヒトの培養細胞(HEK細胞)で発現させてみると、正常NIScDNAでは^<125>Iの取込みが認めたが、T354P変異のNIScDNAでは^<125>Iの取込みを全く認めなかった。 以上により、NIS遺伝子の変異によりヨード濃縮障害が起こることを世界で初めて明らかにした。
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