アンジオテンシンIIの受容体にはタイプ1(AT1)とタイプ2(AT2)の少なくとも2種の代表的なサブタイプが存在し、AT2受容体は心血管系におけるAT1受容体の機能に拮抗的に作用する事が示唆されているが、その役割の詳細は不明である。そこで本研究ではAT2受容体が副腎ステロイド分泌および副腎皮質細胞の増殖調節において果たす役割を明らかにするため、AT1あるいはAT2受容体の拮抗薬、作動薬を組み合わせて用いる事により、副腎皮質のステロイド分泌、DNA合成に対して各サブタイプが示す機能を選択的に検討した。 まず、ウシ副腎球状層細胞の培養系においてアンジオテンシンII、AT1受容体拮抗薬、AT2受容体作動薬、AT2受容体拮抗薬を単独あるいは組み合わせて添加し、副腎ステロイド分泌、プロモデオキシウリジンの取り込みを指標としたDNA合成への影響を検討した。その結果、アンジオテンシンIIによるアルドステロン分泌とDNA合成はAT1受容体拮抗薬にて用量依存性に阻害され、また、AT2受容体拮抗薬にても一部阻害された。AT2受容体作動薬はアルドステロン分泌とDNA合成を促進した。AT2受容体はコルチゾール分泌には関与しなかった。 次に、ヒト副腎腫瘍組織における検討として、手術に際して得られたアルドステロン産生腺腫を細断後、前述と同様の添加実験を行った結果、AT1受容体拮抗薬はアルドステロン分泌を一部阻害し、AT2受容体作動薬により軽度ながら有意なアルドステロン分泌を認めた。 副腎皮質球状層組織のAT2受容体はアンジオテンシンIIによるアルドステロン分泌とDNA合成に促進的に作用することが示された事から、副腎におけるAT2受容体は心血管系とは対照的にAT1に相補的に作用し、副腎ホルモン分泌と細胞増殖の調節に関与することが示唆された。
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