肝臓において、生下時より著しく血中レプチン濃度が上昇するレプチン過剰発現トランスジェニックマウス(以下、Tg)の作製に成功し、解析を行った。Tgの体長は非トランスジェニック同胞(以下、non-Tg)に比較して有意差はなく、体表における奇形は認めなかった。Tgの体重は離乳期前後よりnon-Tgの75-80%に減少しており、摂餌量もnon-Tgの80%に低下していた。この変化は少なくとも30週齢まで観察され、レプチンの長期的な体重増加抑制効果、摂食抑制効果が明らかとなった。また、Tgは肉眼的、組織学的に同定できるすべての脂肪組織が消失しており、遺伝子操作による人工的脂肪組織欠損動物であることが明らかとなった。Tgは全身の脂肪組織が欠如し、摂餌量も減少ているにもかかわらず、活動性の亢進、1.5〜2.0℃程度の直腸温の上昇が観察され、過剰産生されたレプチンによる持続的な交感神経活動の亢進が示唆された。Tgは空腹時、自由摂食時のいずれにおいても正常血糖値を示したが、血清のインスリンや中性脂肪値はnon-Tgのおよそ1/3に著しく低下していた。更に、糖負荷試験、、インスリン負荷試験により、Tgにおける糖代謝能の亢進が明らかとなった。Tgでは脂肪組織が欠如しているにもかかわらず糖代謝が亢進していることから骨格筋や肝臓における糖代謝の活性化が示唆され、実際に、ウェスタンブロット法およびPI_3キナーゼアッセイにより、レプチンが骨格筋や肝臓におけるインスリン受容体シグナリングを介することにより、長期的に糖代謝の活性化とインスリン感受性の亢進をもたらすことが明らかとなった。以上の研究結果から、レプチンが生体のエネルギー代謝調節に極めて重要な役割を演じていることが明らかとなり、我々が開発したレプチン過剰発現トランスジェニックマウスがレプチンの生体における持続的なエネルギー代謝調節作用を解析するうえで、また、個体における脂肪組織の機能的意義や臓器相関、脂肪細胞の発生・分化の分子機構を解明するために有用な解析モデルであると考えられた。
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