肝臓においてレプチンを過剰産生し、肥満者に匹敵する血中レプチン濃度を有するレプチン過剰発現トランスジェニックマウス(TGM)と遺伝性肥満・糖尿病モデル、KKA'マウスとを交配し、得られたFlマウスを用いて肥満に伴う糖尿病に対するレプチンの治療薬としての有用性を検討した。A^y遺伝子が導入されたTGM(Tgl+:A^y/+)は6週齢の段階で正常体重を示し、TGM(Tg/+)に匹敵する高レプチン血症、および著しい耐糖能の亢進とインスリン感受性の上昇が観察された。一方、同胞のKKA^yマウス(A^y/+)は正常体重ながら既に中等度のインスリン抵抗性を示した。この結果から、過剰なレプチンはA^y/+の糖代謝異常の発症を遅延させることが出来ることが示された。12週齢の段階ではTg/+:A^y/+とA^y/+の両者は同程度の肥満と糖尿病を発症した。両者に3週間のカロリー制限(自由摂餌量の70%)を加えた結果、両者の肥満は同程度に軽減されたが、前者は肝臓におけるレプチンの過剰発現のために明らかな高レプチン血症が維持されたのに対し、後者の血中レプチン濃度は肥満の軽減に伴って著明に低下しており、この時点において前者・(Tg/+:A^y/+)の耐糖能およびインスリン感受性は後者(A^y/+)に比較して明らかに改善していた。従来、肥満に伴う糖尿病に対する治療として長期的カロリー制限が汎用されてきたが充分な効果が得られないことが多かった。本研究で得られた成績は、過剰なレプチンが肥満に伴う糖尿病病態の改善を促進することを示しており、肥満に伴う糖尿病の新しい治療モードとして、減量療法とレプチン投与のコンビネーションが有効である可能性が示唆された。本研究において開発に成功したTg/+:A^y/+マウスは週齢や肥満の段階によって糖代謝の状態が変化し、カロリー制限によっても血中レプチン濃度が低下しないことがら、肥満に伴う糖尿病に対するレプチンの治療的有効性を明らかにし、レプチンを用いた遺伝子治療の応用を模索する上でユニークかつ有用な実験モデルと考えられる。更に、レプチンが正常動物の糖代謝を冗進させるばかりでなく、実際に糖尿病の病態を改善することが明らかとなり、生体の糖代謝調節におけるレプチンの病態生理的意義と糖尿病治療における臨床応用への可能性が示された。
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