エリスロポエチン(EPO)は赤血球系の増殖分化に必須のサイトカインである。EPO受容体(EPOR)には細胞内領域欠損型受容体(EPOR-T)が存在し、EPOR-Fからの増殖シグナルやアポトーシス抑制シグナルに対してドミナントネガティブに作用している。EPOR-FまたはEPOR-Tを過剰発現したトランスジェニックマウスを作製したところ、EPOR-Tを過剰発現したマウスは貧血となり、貧血誘導実験でも明らかに死に易い傾向を示した。得られたEPOR-Tトランスジェニックマウスの赤芽球においてはEPOR-Tの共存のためにEPO/EPOR系シグナルが弱く、従ってアポトーシス抑制シグナルも減弱している。このようなマウスにおいては、赤芽球のアポトーシスをなるべく回避するべく、フィードバック機構によって、何らかのアポトーシス抑制因子の発現が高くなっていたり、アポトーシスを誘導するような因子の発現が低下しているといった可能性がきわめて高い。このようなマウス由来の赤芽球細胞を用いて、目的とするアポトーシス調節分子の探索を試みた。平成9年度は以下の実験を行った。(1)cDNAライブラリーの作製。正常マウス胎児肝細胞および骨髄細胞より回収した赤芽球系細胞とEPOR-Tトランスジェニックマウスより回収した同様な細胞とを材料として一般的な方法でcDNAライブラリーを作製した。(2)サブトラクション法による新しい遺伝子のクローニング。得られたcDNAライブラリーを用いて、一般的な手法によってサブトラクションスクリーニングを行った。いくつかの候補遺伝子が得られたが、RNAの発現レベルを解析したところ明らかに発現レベルの異なるような遺伝子は未だに得られていない。スクリーニングを続行中である。
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