研究概要 |
生体内に存在する造血器官は、数多くの造血因子が複雑なネットワークを形成して維持されている。その中で、巨核球-血小板系の分化、増殖を誘導する因子としてトロンボポエチンが同定され遺伝子クローニングされた。トロンボポエチンが標的細胞上に存在する特異的受容体と結合し、トロンボポエチンの持つ情報が受容体を介して細胞内に伝達されその作用が発現される。トロンボポエチンの細胞内情報伝達に関与する細胞内分子の構造に関してはこれまで幾つかあったものの、それらは全て既知の分子でありトロンボポエチンに特有な分子は未だ同定されていない。トロンボポエチン受容体をコードする遺伝子はmplとしてすでにクローニングされている。現在のところmpl遺伝子はその細胞内領域の違いによってP TypeとK Typeの2種類が存在することが知られている。しかし、P TypeとK Type両者ともその遺伝子産物は受容体としての機能を有しているものの、それらの機能的差異に関しては現時点において証明されていない。以上のように、トロンボポエチンおよびその受容体の機能に関してはいまだ不明な点が多い。我々はこれまでに、トロンボポエチンの標的細胞における作用発現の機構を解析するため、ヒト巨核球系細胞株であるMo7e細胞を用い細胞内の機能性分子に関して主にリン酸化について調べた。解析の結果、Mo7e細胞においてはトロンボポエチン刺激によりDNA合成が誘導されることが明らかとなった。さらに解析を進めたところ、DNA合成が誘導される状況においてJAK-2,Shc,Sos,Vav,c-Cblがリン酸化を受けることも明らかとなった。以上の結果よりこれらの細胞内分子がトロンボポエチンの細胞内情報伝達に関与している可能性が示唆されている。JAK-2はJAK/STAT pathwayに属する細胞内情報伝達分子であることが知られており、また、Shc及びSosはRas pathwayに属する細胞内情報伝達分子であることが知られている。一方、Vav及びc-Cblについては現在のところ前述の二つの細胞内情報伝達経路には属さないことは知られているものの、細胞内における機能については不明の点が多い。以上よりトロンボポエチンが標的細胞においてその機能を発揮するためにはJSK/SAT pathway、Ras pathwayに加えてVav及びc-Cblの属する未知の細胞内情報伝達機構が必要であることが示唆されていた。
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