インテグリンは種々のα/β鎖の組み合わせからなる多種類の接着レセプターであり、単に細胞外の接着蛋白質に細胞をつなぎ止めるdocking mo1eculeというよりは、リガンドとの結合によって細胞内にシグナルを伝え、また逆に細胞内からのシグナルによってそのリガンド結合活性が制御されるという、2方向性のシグナリング分子である事がわかってきた。血小板の活性化においてはこれまでβ3インテグリン(GPIIIa)がこの2方向性のシグナリング分子として重要な役割を果たしていることが知られているが、β1インテグリン(GPHa)のシグナリングについての研究はあまりなされていない。そこで本研究では申請者が最近作製した抗体(AG89)を利用して、血小板がβ1インテグリンを介して活性化された時とβ3インテグリンを介して活性化されたときのシグナリング経路の違いを調べ、現実の血栓形成初期に血小板に「何が、どういう順番で」起こっているのかを明らかにすることを目指した。本研究は申請者が作製したAG89というモノクローナル抗体を使った実験が主体となった。この抗体はヒトβ1インテグリンの活性化したコンフォーメーションを選択的に認識し、リガンドを結合したインテグリンにはさらに良く結合する。これらの性質を利用して以下のように研究を進めた。 (1)まずAG89のβ1インテグリン認識の詳細を理解するため、AG89のエピトープがβ1インテグリンの分子中のどこに有るのかを調べた。ヒト/マウスキメラのβ1インテグリンを細胞に発現させてそれに対するAG89の反応性を調べ、AG89のエピトープがアミノ酸残基で426-586番目に相当する部分のいわゆる"stalkregion"にあることを突き止めた。 (2)AG89にはβ1インテグリンを活性化してリガンドとの結合を増大させる活性があった。この活性は他の活性化抗体であるTS2/16などと比べて弱いものであったが、両者の活性化メカニズムは完全に異なることがわかった。
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