種々の抗血栓的な機能を有している血管内皮細胞が損傷を受けると、露呈した内皮下組織には血小板を主体とした凝集塊が形成され、血栓の形成へとつながる。フィブリノーゲン(Fg)は内皮が損傷を受けた部位に集積し、内皮細胞に対して粘着・伸展・遊走を促進する。このように内皮細胞のFgへの接着は、損傷血管の修復や血管新生などに関与すると考えられる。Fgは内皮細胞表面レセプターの一つであるインテグリンと、RGD(Arg-Gly-Asp)依存性に結合することが知られており、主としてαvβ3(ビトロネクチン受容体)を介すると考えられていた。ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)と^<125>IラベルしたFgとの結合を、種々の2価陽イオン条件下で比較したところ、その結合はMn^<2+>存在下で認められ、Ca^<2+>はその結合を阻害した。Mn^<2+>存在下でのFgのHUVECへの結合は、RGDペプチドで完全に阻害されたが、抗β3抗体および抗αvβ3抗体は全く抑制効果を示さなかった。このためαvβ3以外の種々の抗インテグリン抗体による抑制効果を検討したところ、抗α5β1抗体で完全に抑制されることより、α5β1(フィブロネクチン受容体)を介することが明らかとなった。FgはHUVEC表面のα5β1に特異的に高親和性に(Kd=65nM)結合した。FgのAα鎖にある2ヶ所のRGD配列に対するモノクローナル抗体での抑制効果により、C端側のRGD配列Aα572-574がFg側の認識部位と考えられた。このFgのα5β1への結合は、HUVECのみならず血小板でも認められた。また胎盤より精製したα5β1へのFgの結合を検討したところ、Mn^<2+>存在下で特異的な結合がみられた。以上の結果より、Fgと直接結合する血管内皮細胞上の新たなインテグリンα5β1を同定した。
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