研究概要 |
我々は以前よりBCR-ABL融合蛋白と相互作用する細胞内分子の同定を行ってきた。すなわちBCR-ABL融合蛋白がアダプター蛋白であるShc,Grb2と会合し(J.Exp.Med.,1994,179:167-175)、Rasを活性化させることを報告した(Blood,1993,82:1838-1847)。さらにはBCR-ABL融合蛋白がホスホチロシンホスファターゼ、SHP-2と相互作用することも報告した(J.Biol.Chem.,1994,269:15381-15387)。またBCR-ABLの四量体形成ドメインが細胞内情報伝達分子とBCR-ABLの相互作用に必須であり、BCR-ABLの造腫瘍能は繊維芽細胞と造血器細胞ではequivalentではないことを報告した(J.Biol.Chem.1997,272:1389-1394)。そこで今回、人工的に作製したBCR-ABL機能ドメインの欠損、変異体をレトロウイルスベクターを用いて、マウス骨髄細胞にin vitroで発現させマウスに骨髄移植することにより、BCR-ABL機能ドメイン欠損、変異体のin vivoでの白血病化に与える影響を検討した。 1)BCR-ABL融合蛋白のN末端から63個のアミノ酸は疎水性基を持つアミノ酸が規則的に配列するため分子間でのよじれ(coiled-coil)を形成する分子構造を有する。この領域を欠損するBCR-ABL異変体(BCR-ABL/_Δ1-63)では4量体化がおこらず、繊維芽細胞に導入しても発癌性は誘発されない。2)BCR第一エクソンによりコードされる領域内でさらにC末端部側にあるSH2結合ドメインはGrb2結合部位(Y177)を含み、この部分の欠損型BCR-ABL(BCR-ABL/_Δ64-509)も造腫瘍性が低下している。3)ABL上のSH2ドメインもこの領域の欠損型BCR-ABL(BCR-ABL/_ΔSH2)でも造腫瘍性が低下しており、c-mycを同時に過剰発現させるとこの造腫瘍性の低下が回復されることより、BCR-ABLのシグナル伝達の下流にはc-mycが位置し発癌のシグナルの少なくとも一部はこのSH2ドメインから発していると考えられる。4)ABL-チロシンキナーゼドメイン内のATP結合部位の変異体(BCR-ABL/1294F)が発癌性が低下していることからSH2ドメインを有するアダプター蛋白がこの部位に結合しシグナルを発していると考えられる。以上、4種類のBCR-ABL融合蛋白の機能ドメインの欠損変異体、BCR-ABL/_Δ1-63、BCR-ABL/_Δ64-509、BCR-ABL/_ΔSH2、BCR-ABL/1294Fを含むレトロウイルスベクターpSLXCMVを作製し、ウイルス産生細胞GPE86にリン酸カルシュウム沈降法を用いてトランスフェクトし10^5 neoR CFU/ml以上の高力価ウイルスを得た。平成10年度は得られた高力価ウイルスをマウスの骨髄細胞に感染させBCR-ABL変異体のin vivoでの白血病化に与える影響を検討する。
|