蛋白尿惹起分子p51のクローニング、並びにその分子機能の解明

1997 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 09770842
• 研究機関: 新潟大学
• 研究代表者: 河内 裕 新潟大学, 医学部, 助教授 (60242400)
• キーワード: 糸球体 / 上皮細胞 / スリットダイアフラグム / 蛋白尿 / p51 / ZO-1

研究概要

糸球体上皮細胞足突起間のslit diaphragm(SD)の構成蛋白p51を認識する単クローン抗体5-1-6により誘導される蛋白尿の発症機序の検討を続けてきた。既に報告している蛋白尿出現時p51がSD部から消失しているという事実は、SDは糸球体系蹄壁の透過性制御に重要な役割を果しており、p51がSD機能を維持する上で不可欠な構成成分であることを示している。今年度(平成9年度)は、まず二重標識金粒子免疫電子顕微鏡法を用いp51のより正確な局在、並びにSD構成蛋白と報告されているZO-1との局在の異同を詳細に検討した。ZO-1は、糸球体上皮細胞表面に存在し、p51は、ZO-1と連続する位置の足突起間に直線状に存在しているのを観察した。蛋白尿出現時のp51とZO-1の動態を検討した結果、蛋白尿がピークとなる抗体静注5日目では、p51のみならずZO-1もSD部から消失していることを免疫組織化学手法、Western blot法を用いて証明した。これらの蛋白が消失しているにも関わらず通常の電子顕微鏡を用いた検討では、足突起の融合などの形態学的変化を見い出すことはできず、SD構造の分子レベルでの微小な変化が系蹄壁のバリアー機能の破綻を招いたと考えられた。これらの観察結果、蛋白尿発症機序についての考え方は、米国生理学会誌(Am J Physiol)、並びに『腎と透析』誌上で報告した。またp51,ZO-1の局在変化のメカニズムをin vitroで解析するための系と確立し、平成9年度第40回日本腎臓学会総会において報告した。また胎生期ラット腎の器官培養の系でp51を発現させることに成功し、このp51合成期の腎器官培養材料を用いcDNA libraryを作成した。今後は、このlibraryを用いてp51分子のクローニングを続けていくと同時に、SD構造、機能の解明を、進めていく予定である。

研究成果

• [文献書誌] Kawachi H: "Slit diaphragm-reactive nephritogenic MAb 5-1-6 alters expression of ZO-1 in rat podocytes" Am J Physiol. 273. F984-F993 (1997)
• [文献書誌] Kitamura M: "Creation of an in vivo cytosensor using engineered mesangial cells" J Clin Invest. 100. 1394-1399 (1997)
• [文献書誌] Kobayashi H: "Detailed analysis of phenotypes of macrophages infiltrating glomeruli in rat anti-Thy 1 nephritis" Nephron. 77. 333-339 (1997)
• [文献書誌] Li P: "Suppressive effects of Sairei-to on monoclonal antibody 1-22-3-induced glomerulonephritis : Analysis of effective components" Pathol Int. 47. 430-435 (1997)
• [文献書誌] Omori S: "Quantification of apoptotic ells using isolated glomeruli" Nephron. 77. 473-478 (1997)
• [文献書誌] 河内 裕: "糸球体上皮細胞の細胞生物学-障壁としての生理機能" 腎と透析. 43. 193-197 (1997)
• [文献書誌] Nakayama M: "Roles of TGF-β and latent TGF-β-binding protein in glomerulosclerosis induced by two consecutive injections of monoclonal antibody 1-22-3 in rats" Nephron. 76. 82-89 (1997)
• [文献書誌] Li P: "Effect of Sairei-to on irreversible glomerular sclerotic lesions in rats" Nephrol. (in press).
• [文献書誌] Nakayama H: "Comparative nephritogenicity of two monoclonal antibodies that recognize different epitopes of rat Thy-1.1 molecule" Nephron. (in press).