研究概要 |
昨年度はアンジオテンシノーゲン遺伝子欠損(Atg-/-)マウスの傍系球体装量において神経型一酸化窒素合成酵素(N-NOS)が過剰発現していることを示し,この酵素の活性上昇がAtg-/-マウスの腎臓におけるレニン過剰発現に関与していることを示す結果を得た. 今年度は,この現象がアンジオテンシノーゲンが存在しない条件下における特異な病態であるか否かを検証するため,腎臓に著明な形態異常を認めないアンジオテンシンタイプ1a(AT1a)受容体遺伝子欠損マウスについて同様の検討を行った.その結果,AT1a-/-マウスの緻密斑においてもN-NOS活性は有意に上昇していた.また,塩分負荷によりN-NOSおよびレニンは並行して発現が低下した.一方,塩分制限によりN-NOS活性は有意に増加したが,レニン発現は上昇する傾向は認めたものの有意な増加はみられなかった.緻密斑のN-NOSはレニン発現と必ずしも連動しない場合のあることが明らかとなった. なお,AT1a-/-マウスにおいても尿濃縮力障害,尿中アルドステロン排泄の低下,塩分摂取量の変化に応じた体重変動など,水・Na保持能力の低下を示唆する所見が得られた.ただし,その程度はAtg-/-より軽度であった. レニンの発現にはプラスタグランディン(PG)が関与しているという報告があるため,Atg-/-およびAT1a-/-マウスの腎臓において誘導型PG合成酵素(COX-2)の分布を検討した.その結果,Atg-/-マウスの緻密斑においてCOX-2が過剰発現していることを明らかにした.COX-2は塩分負荷により発現が減少した.今回使用したCOX-2抗体ではAT1a-/-の緻密斑にはCOX-2は染色されなかったが,塩分制限を行うことによって発現が観察された.野生型ではいずれの条件下においても緻密斑にCOX-2は認められなかった.ただし,COX-2特異的阻害剤であるNS-398は両遺伝子欠損マウスともにレニンの発現を抑制せず,PGがレニン過剰発現に関与している証拠は得られなかった.
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