研究概要 |
<目的>慢性腎不全の進展においては原疾患のいかんを問わず、糸球体高血圧の関与が明らかにされている。上昇した糸球体内圧は、メサンギウム細胞に少なくとも伸展負荷と圧負荷の機械的刺激を与えると考えられる。近年、伸展負荷の及ぼす細胞応答に関する報告が散見されるが、圧負荷自身の及ぼす細胞応答については知られていない。そこで今回、培養ラットメサンギウム細胞に圧力負荷を加え、圧力負荷自身の細胞増殖に及ぼす効果を検討した。さらに、腎保護的作用を有する新しい降圧物質であるアドレノメジュリン(Osajima et al. Eur. J. Pharmacol. 315,319)の圧力負荷に及ぼす効果についても検討した。<方法>静的圧力負荷装置としてHe gasを吹き込み、gasの流入圧力・流入時間・温度等の設定および薬液等の注入が可能な密封装置を使用し、以下の実験を行った。(1)圧力負荷のDNA合成能および細胞増殖能に及ぼす効果(2)圧力負荷の細胞内情報伝達機構に及ぼす効果(1)protein kinase(2)IP_3(3)_cAMPおよび_cGMP(3)アドレノメジュリンの圧力負荷によるDNA合成能および細胞増殖能に及ぼす効果<結果>(1)DNA合成能および細胞増殖は80mmHgまでの圧負荷では、圧依存性に増加した。また、2時間までの圧負荷では時間依存性に増加した。以上より圧条件を80mmHg、1時間に設定した。80mmHg、1時間の圧負荷ではコントロールに比べ、24時間後のDNA合成能は2.7倍、48時間後の細胞増殖能は1.4倍に増加した。(2)(1)tyrosine kinase inhibitor, phospholipase C inhibitor, protein kinase C inhibitorはいずれも圧負荷時のDNA合成を有意に抑制した。(2)圧負荷後30秒でIP_3産生は有意に上昇し、その後徐々に低下し90秒で基礎値に戻った。(3)_cAMP及び_cGMP産生には影響しなかった。(3)アドレノメジュリンは10^<-9>M濃度より圧負荷時のDNA合成を有意に抑制した。また、dibutyrl_cAMPやforskolin添加にて圧負荷時のDNA合成は有意に抑制された。<考察>圧力負荷によりメサンギウム細胞は増加し、それは少なくともtyrosine kinase及びprotein kinase Cを介していることが示唆された。また、アドレノメジュリンは、_cAMPを介して圧力負荷による細胞増殖を抑制しうることが示唆された。
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