ファブリー病患者23例の尿を試料として、ビトロネクチンレセプター(VNR、インテグリンαvβ3)の尿中排泄量に関して、ウエスタンブロツテイング法により解析をした。VNRの尿中排泄量は、古典型ファブリー病ヘミ接合体、亜型ヘミ接合体、古典型ヘテロ接合体の順に多く、これらの値は、正常コントロールに比べて有意に増加していた。腎機能や尿所見に異常を認めない段階のファブリー病患者においても、尿中へのVNRの排泄が認められ、その排泄量は、顕性蛋白尿のみられる各種腎疾患患者の排泄量と同程度かそれ以上であった。尿中VNRの排泄量と患者の年齢、尿蛋白量、血尿の程度についての相関はみられなかった。ELISA法による尿中VNRの排泄量の解析でも同様の結果が得られたが、その感度はウエスタンブロツテイング法の方が優れていた。VNRの主なリガンドであるビトロネクチン(VN)の尿中排泄量をELISA法により測定したが、ファブリー病患者と正常コントロール間に差は認められなかった。古典型ファブリー病ヘミ接合体患者より得られた尿沈さ及び生検腎組織を試料として、免疫組織化学的解析を行った。患者尿沈さは、抗VNR抗体及び抗グロボトリアオシルセラミド(CTH)抗体で、陽性に染色された。患者腎組織は、抗VNR抗体で、糸球体上皮、ボ-マン嚢上皮及び遠位尿細管が陽性に染色され、また抗VN抗体では、糸球体メサンギウム領域で陽性に染色された。ファブリー病患者の腎組織上でのVNR、VNの発現の増加が認められた。以上のことよりVNR-VNが、ファブリー病における腎機能障害の発症進展に関連している可能性が考えられた。今後、細胞レベルでの糖脂質蓄積とVNR-VNとの関連について解析するため、ヒト腎臓由来の培養細胞を用いて、α-ガラクトシダーゼに対するアンチセンスSオリゴDNAを投与することにより、人工的なファブリー病のモデルの確立をめざす。さらにこの系で基質の蓄積とVNRの発現の増加の有無について検討を行う予定である。
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