ET-1遺伝子欠損マウスには、ET-1遺伝子1つの変異により小耳症、小顎症、口蓋裂と一致する表現型が生じるという特殊性があり、このマウスにおける奇形の組み合わせはピエールロバン症候群やトリチャーコリンズ症候群などのヒトの疾患と類似しており、心血管系の異常も合併することからも関連疾患との類似性が示唆されている。一方、従来より心血管系の異常が顔面血管の発生過程に影響することは知られているが、その詳細な過程については解明されていない。そこで今回の研究では、ET-1欠損が顔面形態、特に心血管系の異常に関連すると思われる顔面血管系の発生過程にどのような影響を与えているかに注目し、形態学的ならびに組織学的に観察した。 1)血管内墨汁注入標本:雌雄マウスを用いた1晩Matingさせた翌朝、膣栓検査により精子の認められた日の午前0時を胎生0日0時とし、出生日を生後0日とし胎生10日から生後0日までの野生マウスおよびET-1欠損マウス胎仔を観察の対象とした。妊娠マウスに麻酔をした後、開腹し胎仔を取り出した。注入装置による墨汁の注入を実体顕微鏡下に臍血管より行った。注入は胎仔にシリンジから5%ゼラチン加墨汁を頭部血管が黒くなるまで行い、その後冷蔵庫内でゼラチンを硬化後断頭して冷ホルマリンアルコール液で固定を行い、凍結ミクロトームを用いて連続切片を作製し、無染色の状態で光学顕微鏡下の観察を行った。また、主要血管に墨汁が注入された時点で、実体顕微鏡下で観察し顔面血管の走行状態の確認を行った。 2)樹脂注入血管鋳型標本:墨汁注入と同様に妊娠出生した生後0日の野生およびET-1欠損マウスの開胸を実体顕微鏡下に行い心臓を露出。露出された心臓より、予め25%の割合でメタクリレートモノマーを加えて粘度を下げ色素を加えたメルコックスをゆっくり注入し、頭部血管に樹脂が注入されるようにした。注入終了後1%KOHにより軟組織を腐食除去し、検体を凍結乾燥させ、実体顕微鏡下で周囲の余剰組織の除去を行った上で、走査電子顕微鏡による観察を行う標本を作製している。
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