ET-1遺伝子欠損マウスには、この遺伝子の変異により小耳症、小顎症、口蓋裂と一致する表現型が生じるという特殊性があり、このマウスにおける奇形の組み合わせはピエールロバン症候群やトリーチャーコリンズ症候群などの疾患と類似している。また、心血管系の異常も合併することからも関連疾患との類似性が示唆されている。一方、心血管系の異常が顔面血管の発生に影響することは知られているが、その詳細な過程についての解明は行われていない。今回の研究では、ET-1欠損が顔面形態、特に顔面血管系の発生過程にどのような影響を与えているかに注目し、ET-1欠損マウスの発生過程について形態学的および組織学的に検討を行った。 ET-1欠損マウス胎仔および対照群として正常マウス胎仔を試料として使用した。Whole mount in situ hybridization、血管内バリウムおよび墨汁注入標本、樹脂注入血管鋳型標本により観察を行った。 Whole mount in situ hybridizationにおいて正常胎仔ではET-1は胎生10.5日に咽頭弓上皮に発現し、Pax3がその直下の間葉細胞に限局して発現していたが、ET-1欠損胎仔ではPax3の発現が広範囲に分散していた。このPax3は胎生12.5日の正常胎仔では、上顎突起腹側口吻部のwhisker padを除いた部位全体と下顎突起いずれにも広範囲に認められたが、ET-1欠損胎仔でも上顎および下顎突起のwhisker padおよびその類似構造物周囲以外の部位に広範囲の発現を認めた。また、d-HAND、e-HANDの発現はET-I欠損胎仔で著明に減少していた。 血管注入標本の観察では、ET-1欠損胎仔では顔面動脈から分枝した下唇動脈過剰枝が4本に枝分かれし表層近くに分布し、下顎に存在するwhisker pad様構造物へと走行していた。この複数の枝分かれのため、上唇動脈へ走行する枝は、正常と比較すると細くなっていたが、上唇動脈は顎動脈からの分枝と吻合することで再び太くなり、血液供給を補っているものと示唆された。頭側への分枝では、正常胎仔に較べ太く、浅側頭動脈の一部と吻合しているものも観察された。 ET-1は上皮-間葉相互作用のメディエーターとして咽頭弓の上皮直下に遊走してきた神経堤細胞に由来する外胚葉性間葉細胞に作用し、dHAND、eHAND、Pax3の発現を調節することにより、発生過程の血管構築に影響を及ぼすものと考えられた。
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