研究概要 |
動物実験では、ラットを用いて麻酔下で、門脈遮断や肝切除術を行い、実際の臨床に即した腸管および肝臓の障害やBacterial Translocationを招くモデルを作成した。さらに、ビィフィズス菌を経口投与し、腸内フローラの組成を改変させることが可能であることを明らかとした。炎症性サイトカインを抑制するIL-10のアデノウィルスの遺伝子導入によってIL-10が産生され、門脈遮断による肝障害を有意に抑制できることを明らかとした。また、炎症性サイトカインの遺伝子発現を制御するNFkBを抑制するため、その抑制因子であるIkB遺伝子をもったアデノウィルスを開発した。 一方、臨床では手術患者の術直後から術後3日目に門脈血および末梢動脈血から採血、測定を行い、以下の知見を得た。血液細菌培養は、術直後でも、門脈血、末梢動脈血ともに全例陰性であった。エンドトキシンやIL-6、IL-8などのサイトカインは、門脈血中では末梢動脈血に比較し、高値を示す場合が多かった。また、小腸粘膜傷害の指標であるdiamine oxidase(DAO)を測定すると、術前のDAOと術後のエンドトキシン値は相関し、術前から小腸粘膜傷害が存在する場合には術後にエンドトキシンが産生されやすいことが証明された。つまり、従来、動物実験では細菌が血中に侵入する、狭義のBacterial Translocationが生じることが唱えられてきたが、ヒトでは実際に血中に生菌が侵入することは希有である。しかしながら、術前に腸管粘膜傷害が存在する場合には腸管などの菌に由来するエンドトキシンが増加し、その反応としてのIL-6,IL-8などのサイトカインが産生される、広義のBacterial Translocationが生じることがあることが立証された。
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