研究概要 |
生体組織サンプルは、大腸腺癌患者11人の外科手術時に腫瘍組織とその周辺の非腫瘍組織を採取した。 免疫組織染色により、11例すべての正常組織部にはsLe^x,sLe^a抗原の陽性像は見られなかったが、癌組織部位ではすべての患者にsLe^x抗原の陽性像が見られた。sLe^a抗原は11例中6例の癌組織に陽性像が見られた。各組織よりcDNAを合成して、competitveRT-PCR法によってシアリル化Lewis抗原生合成に関与する11種類糖転移酵素遺伝子の発現を検討した。5種類のα1,3フコース転移酵素のうち、Fuc-TIIIが最も多く発現しており、Fuc-TIVとVIはFuc-TIIIの約半分量の発現が見られた。Fuc-TV,VIIはほとんど発現は見られなかった。腫瘍部位と正常部位を比較するとFuc-TIII,VIの発現はほとんど変化がないが、Fuc-TIVの発現は11例すべての癌組織で上昇していた。4種類のα2,3シアル酸転移酵素遺伝子のうち、ST3Gal IVが最も多く発現しており、ST3GAl I、II、IIIの発現は、それぞれST3Gal IVの20%、10%、10%であった。ST3Gal IとIIは腫瘍部位で増加し、ST3Gal IIIが減少していた。ST6Gal I、β1,4GalTとCore2 GnTは、わずかながら腫瘍部位で増加する傾向であったが、腫瘍部位と正常部位で劇的な変化は見られなかった。 大腸腺癌では、癌化により発現量が変化する酵素とsLe^x,sLe^a抗原の発現変化との関連は見いだせなかった。癌化における糖鎖抗原の変化は、複数の酵素が同時に上昇する協同作用の結果と考えられたが、未知の酵素が存在する可能性を否定できない。母核構造及び末端構造を合成する未知の鍵酵素が、まだ存在する可能性も残されている。
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