研究概要 |
本研究は癌細胞の細胞増殖の異常に対し、細胞間接着がどの様な関与をしているかを明らかにしようとするものである。1)癌細胞においてはcyclinD1の過剰発現が高頻度かつ重要で(Cancer Research,57,1569-1574,1997)、これはしかも、p27KIP1,Rbの過剰発現を伴っていることを報告した。(Carcinogenesis,18,1139-1148,1997)pp27KIP1は細胞接着による細胞増殖の制御に関わることが報告されており、E-cadherinによる細胞周期制御に関与いているかもしれない。2)血清飢餓状態でG1停止を起こしている細胞を血清刺激にて増殖刺激を加えた。このとき、カルシウム除去または抗E-cadherin抗体により細胞間接着を阻害することにより細胞周期の進行にどのような影響がでるかを検討している。現在までに細胞接着の障害による差は見られていない(negative data)。3)細胞周期においてβ-catenin、E-cadherinの発現量が変化するかどうかを検討したが、蛋白全体量としては有意な変化は見られなかった。しかし、M期において著明な細胞間接着の障害、E-cadherinの機能低下が認められた。この原因を今後、β-cateninの局在、リン酸化状態の変化などから検討したい。3)大腸癌におけるβ-cateninのチロシンリン酸化について調べた。癌組織に置いて有意にチロシンリン酸化の亢進が見られた。(BritishJournal of Cancer,77,605-613,1998)4)近年、細胞質内でE-cadherinと結合しないfreeのβ-cateninが転写因子と結合して増殖を支配している可能性が示唆されている。食道癌組織を用いてこの細胞質内free β-catenin poolを調べたところ、癌でかなりの頻度で増加していることを発見した(投稿準備中)。今後、この細胞内free β-catenin poolと細胞周期との関係を検討して行きたい。
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