肝移植後の肝神経の再生過程を明らかにする目的で、神経軸索の存在マーカーであるprotein gene product 9.5(PGP-9.5)と軸索再生のマーカーであるgrowth associaced protein-43(GAP-43)に対する抗体を用い、同系同所性ラット肝移植モデルにおける肝門部神経の免疫組織化学的染色性と超微形態学的変化を観察した。 実験には雄性ラットを用い、肝移植後6カ月目まで経時的に肝門部組織を採取、一次抗体として抗PGP9.5抗体(希釈率1:600)と抗GAP-43抗体(希釈率1:200)を用いて免疫染色を行った。その結果、肝門部の神経軸索は移植後には抗PGP9.5抗体に対して全期間を通して強い染色性を示したのに対し、抗GAP-43抗体の反応性は移植後1、2日目では陰性、移植3日後から陽性となり、その後1カ月目から次第に反応性を減じ、4カ月以降には全ての個体で再び陰性となった。移植3日目の電顕観察では、膨化腫大した変性軸索と直径が小さな再生軸索とがSchwann細胞周囲に混在する像がみられた。 これらの結果は、ラットでは肝移植後も肝の外在性自律神経系が再生することを示すものと考えられる。すなわち、移植によって肝十二指腸間膜で切断されWaller変性に陥った神経軸索の肝側(抹消)部分は再生することはないため、本実験の抗GAP-43抗体に対する染色性の経時的変化は、移植後に宿主側軸索断端から発芽・伸長した再生軸索が3日後には肝門部を通過、3カ月頃迄に肝末梢に到達して再生活動が停止した結果、肝門部における神経軸索のGAP-43に対する染色性が陰性化した事を示すものと解釈される。また、電顕観察の結果は、移植後に宿主側断端より発芽した再生軸索が移植肝側の変性軸索近傍のschwann細胞管(柱)を再生経路として肝末梢に向かって伸長する事を示すものと考えられた。
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