今年度は食道癌患者から得られた内視鏡生検材料から、食道扁平上皮癌と腺癌のThymidylate Synthase(TS)の発現レベルの相異を免疫組織染色とRT-PCRによる定量的PCRの手法により検討した。 対象は東京女子医科大学及びUniversity of Southern Californiaにて内視鏡生検材料の得られた未治療の原発性食道腺癌24症例および扁平上皮癌26症例の計50症例。(うち腺癌10例、扁平上皮癌21例は初回治療としてCDDP+5-FU+Leucovorinによる化学療法が施行された。) また、今年度新たに21症例の内視鏡生検材料を採取し凍結保存してあり、来年度にcDNA library作成後に遺伝子発現・遺伝子変異に関しての解析予定である。 (結果) (1)TS遺伝子のmRNA発現レベルは腺癌症例では、扁平上皮癌の約3倍と有意に高値であった。 (2)腺癌症例のTS遺伝子のmRNA発現レベルは、胃癌・大腸癌と同様の分布を呈し、ある特定のcut-off point以上の発現を示す症例は化学療法に奏効しなかった。一方扁平上皮癌症例ではTS遺伝子のmRNA発現レベルと感受性に相関はなかった。 (3)RT-PCRによるTS発現レベルの測定は、免疫組織染色での染色性に有意に相関し、今後化学療法の効果とTSの相関は免疫組織染色によって簡便化できる可能性が示唆された。 来年度はさらに症例を集積するとともに、TSをregulationするDPDやThymidine Phosphateの発現を同様の方法で調べ、TSを中心とした代謝系が食道癌の組織系や発癌によりどのように変化していくのかを解明したい。
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