大腸癌原発巣切除例120例を対象に、第VIII因子関連抗原に対する抗体を用いた免疫組織化学的染色を行い、微小血管を同定した。大腸癌組織内における微小血管密度(TMVD)および腫瘍浸潤先進部間質組織における微小血管密度(SMVD)を算出し高密度群(一視野あたり40未満)、低密度群(一視野あたり40以上)として検討した。また抗ラミニン抗体を用いラミニンの発現性を同時に検討し、癌細胞の接着性の変化、微小血管増生との関連、これらの予後因子としての意義を検討した。また遠隔成績との関連はCoxの比例ハザードモデルを用いた生存分析を行い、従来の臨床病理学的因子とともに遠隔成績に影響する因子の重みを比較した。TMVDは高密度群、低密度群の間に遠隔成績に有意差を認めなかったが、SMVDはラミニン発現減弱症例に限り高密度群が低密度群に比較し有意に予後不良であった(p<0.05)。大腸癌組織におけるラミニンの発現減弱症例のハザード比(HR)は2.11(95%CI;1.08-4.12)でリンパ節転移のHR3.23(95%CI;1.70-6.17)に比較し低かったが有意な予後因子であった(p<0.05)。さらにラミニンの発現減弱かつ周辺の間質組織のMVD高密度群でHRは2.86(95%CI;1.25-6.55)とさらに予後不良であった(p<0.05)。これらの結果より、ラミニンの発現および周辺間質組織のMVDは他の臨床病理学的因子とは独立した大腸癌の予後因子でありラミニンの発現性とともにSMVDが大腸癌の重要な予後因子であると考えられた。 一方、大腸癌組織におけるVEGFの発現を免疫組織学的に検索したところ、VEGFの発現陽性率は35.2%(37例/105例)であった。VEGFの発現と腫瘍最大径、腫瘍占居部位、組織型、壁深達度、リンパ管侵襲、静脈侵襲、リンパ節転移、腹膜播種性転移、肝転移、Dukes stageとの間に関連を認めず、VEGFの発現は他の臨床病理学的因子とは独立した因子であった。MVC値はVEGF陽性例で42.3±27.4、VEGF陰性例で38.0±20.4であり、VEGF陽性例の癌組織におけるMVC値が高い傾向を示したが有意差は認められなかった。癌浸潤先進部間質におけるMVC値についてもVEGF陽性例で39.4±22.8、VEGF陰性例で34.4±19.0と有意差は認められなかった。以上の結果より、大腸癌組織における微小血管数はVEGFの発現の有無以外の因子によっても制御されているものと考えらた。
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