これまで術後疼痛に対する鍼鎮痛法の作用機序は明確ではなかった。しかし、本研究にて合谷、足三里穴への低頻度3Hz鍼通電(3時間連続通電)を試みた結果、術後疼痛に対する鍼通電は、非通電群に比し、通電後にβ-Endorphinを有意(P<0.05)に再上昇させ同時に術後疼痛が軽減し、鎮痛剤を必要としなかった。このことから術後疼痛に対する鍼鎮痛はβ-Endorphinが関与することが示唆された。 また、全身麻酔下にあるにもかかわらず術中にβ-Endorphin、ACTHが全症例で有意(P<0.01)に増加し、術後は漸次減少した。このことは、麻酔下で意識の無い状態においても生体は麻酔や手術侵襲等の影響を中枢に入力し、術後の疼痛に備えストレス誘発鎮痛を賦活させている可能性が示唆される。ストレス誘発鎮痛は、様々な侵襲ストレスが視床下部に作用すると下垂体からβ-Endorphinと同時にACTHが放出されストレス誘発鎮痛が惹起されると考えられている。しかし、鍼通電においてACTHの増加は認められなかった。これは、術後疼痛に対する鍼通電(鎮痛)はストレス刺激とならない可能性も考えられる。さらに、胃全摘術など手術侵襲が大きな術式ではACTHが術中値より術後12時間まで基準値を越え高濃度を持続したが、β-Endorphinは基準値内に下降した。この様にACTHは生体への負荷(手術侵襲)の状態を反映し、術後疼痛に対する鎮痛作用との関連は認められなかった。
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