染色体の末端テロメラ構造を安定に保つ酵素テロメラーゼは、細胞の不死化に伴って活性することが知られており、近年、細胞の腫瘍化との関連が注目されている。本研究の目的は、食道癌を対象にテロメラーゼ活性の発現の意義を検討し、さらに、抗癌剤との関連を極討することで食道癌治療へ応用する可能性を模索することにある。 本年度は、前年度から引き続いて計25例の食道癌を対象に検討を行った。手術標本の検索では、すべての症例においてテロメラーゼ活性が認められた。また、テロメア長も全症例で短縮していた。臨床病理学的検討では、臨床病理学的諸因子とテロメラーゼ活性の間には有為な相関は得られなかった。しかし、テロメア長とテロメラーゼ活性は相関し、テロメア長の短縮によりテロメラーゼ活性が亢進する傾向が認められた。内視鏡生検材料についての検討では、25例中7例でテロメラーゼ活性が認められず、必ずしも手術標本の結果と一致しなかった。また、正常粘膜においてテロメラーゼ活性の亢進が認められた症例もあった。内視鏡生検材料で正確な結果を得るためには採取方法や採取量、インヒビターの問題など克服する点は多数有り、癌診断への応用にはさらなる検討が必要と思われた。食道癌細胞株における抗癌剤感受性との関連の検討では、CDDP感受性力高い細胞株ほど、テロメラーゼ活性が亢進する傾向が認められた。さらに、一部の細胞株ではCDDP投与によりテロメラーゼ活性の抑制が認められ、癌治療への応用が期待できた。
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