研究概要 |
1.癌における特異免疫の存在 食道癌に対する特異免疫の存在の有無を明らかにする目的で食道癌浸潤リンパ球内にHLA-クラスI拘束性キラーT細胞が存在するか否かを検討した。その結果、食道癌の癌局所にHLA-Cw0102拘束性キラーT細胞は存在した(Toh et al., Cell.Immunol. 1997)。以上より食道癌においてもメラノーマと同様に癌局所に特異免疫(キラーT細胞)とが存在することが示唆される。これらの事実は腫瘍特異免疫療法の科学的根拠を与えるものと考えられる。 2.扁平上皮癌及び腺癌拒絶抗原遺伝子の同定 上記にて樹立したキラーT細胞株により認識される抗原をコードする遺伝子をT.Boonらの方法(gene-expression cloning法)を用いて解析した。これまでのところ食道癌cDNAライブラリーより4種類の新規と考えられる遺伝子(SART-1,SART-2〜SART-4)をクローニングし、現在その全DNA配列、蛋白構造、ペプチド等々について解析中である。以下最も解析の進んでいるSART-1についてその概略を記す。 3.HLA-A2601拘束性扁平上皮癌拒絶抗原遺伝子SART-1の解析:これまでにKE-4 CTL株によって認識される抗原が2506bpからなる新規の遺伝子(GenBank Accession number AB006198)であり、その遺伝子(SART-1と仮称)は2つの蛋白(125kd及び43kd)をコードするbicistronic geneであることを見い出した(Shichijo et al.,J.Exp.Med.,1998)。125kdのSART-I蛋白はLeucine-zipper構造及びDNA結合能を有する核内蛋白であった。一方、43kdのSART-1蛋白は頭頚部癌や食道癌の殆どすべて(80-100%)及び非小細胞性肺癌の50%、子宮癌の30%に発現する細胞質内蛋白であり、正常組織や正常細胞また、白血病細胞、メラノーマ、乳癌などには全く発現していない。これらより43kdSART-1蛋白質にコードされるペプチド部分が扁平上皮癌や一部の腺癌に対するキラーT細胞において認識されているものと推定される。
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