1、 従来フッ化ピリミジン系抗癌剤が無効とされてきた非小細胞肺癌組織における同抗癌剤の標的酵素であるチミジル酸合成酵素(以下TS)の発現を検討したところ、RNAレベルにおいてもまた蛋白レベル・酵素活性においてもTSの発現が確認された。このことは非小細胞肺癌においてもフッ化ピリミジン系抗癌剤が有効であるかもしれないという理論的根拠を示す者である。更にウエスタンブロッティングやbinding assayによって確認されたこれらTS蛋白の発現量や酵素活性値が、免疫組織染色による染色程度と一致することを見いだした。 2、 l、の事実をふまえて非小細胞肺癌切除例におけるTS発現の程度とその予後、またTS発現の程度とフッ化ピリミジン系抗癌剤投与の効果との相関について検討を行った。完全切除された非小細胞肺癌症例の腫瘍組織におけるTSの発現とその予後の間には明らかな相関は認められなかった。しかしながらTS発現の程度とフッ化ピリミジン系抗癌剤内服の効果を検討すると、TS発現陰性例ではフッ化ピリミジン系抗癌剤内服の効果が認められないのに対して、TS発現陽性例ではフッ化ピリミジン系抗癌剤内服が有効であるとの結果が得られた。以上の知見は、非小細胞肺癌においてもフッ化ピリミジン系抗癌剤投与が有効である可能性を示唆すると同時に、その有効性が標的酵素であるTSの組織内発現によって左右されることを示唆している。
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