開心術時における心筋の虚血・再灌流障害の最も大きな要因をなすものは細胞内へのカルシウムの過剰流入である。虚血・再灌流障害を軽減する目的で、これまでに再灌流時におけるカルシウムの過剰流入をおさえる研究が多く行われてきたが、細胞内からのカルシウム流出機構に関する研究はほとんどなされていない。今回我々は、特に細胞内カルシウムの流出機構に注目し、その促進薬剤を求め、虚血・再灌流障害軽減の、目的を追求する。また、これまで我々は、摘出心筋全体でのイオン含量についての報告を行ってきたが、それでは心筋細胞内、間質、血管内等すべてを含んでおり、真の細胞内イオン含量を反映しているとはいいがたい面があった。より純粋に細胞内イオン含量を測定できる単離心筋細胞を用いてこの研究を進める。 1)成熟Sprague-Dawley rat(体重250-300g)を用いる。エーテル麻酔下に心臓を摘出し、0.2% collagenase I+0.04% protease IV 添加のカルシウム free のbuffer solution にてLangendorff灌流し、単離心筋細胞を得る。 2)単離心筋細胞に ^<45>CaCl_2を4μCi/ml添加し、1時間インキュベートし細胞内にアイソトープ標識カルシウムを取り込ませる。細胞内からのカルシウム流出を促進されると考えられる薬物(ATP、ブラジキニン、アンギオテンシン、Lysophosphatidylcholine等)を添加し、薬物の有無で各fractionごとの ^<45>Ca^<2+>の放射活性が増加するか否かを検討した。 3)心筋細胞内からのカルシウム流出を促進させる薬物が得られれば、さらにその細胞内機構を探究するため、細胞内cAMP濃度の変動、PI turnoverの測定などを行い、細胞内セカンドメッセンジャーの同定を行った。 4)Sprague-Dawley ratを低酸素条件(FiO_2 0.1;N_2ガスにて飼育チャンバー内のO_2濃度を10%程度に保つ)で飼育する。一週間後に1)と同様に酵素処理を行い、慢性チアノ-ゼ単離心筋細胞を得る。2)で確認した細胞内からのカルシウム流出を促進させる薬物を同様に投与し、正常心筋細胞と慢性チアノ-ゼ心筋細胞とのカルシウム流出機構に差があるか否かを比較検討中である。
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